後頭神経痛(Occipital Neuralgia:ON)は、主に大後頭神経(Greater Occipital Nerve:GON)、小後頭神経(Lesser Occipital Nerve:LON)、第三後頭神経(Third Occipital Nerve:TON)の走行領域に、突発的な「キリキリ」「ピリピリ」といった発作性の刺すような痛みを生じる疾患です。国際頭痛分類(ICHD-3)では、「GONまたはLON領域におけるパルス状または刺すような痛み」と定義され、触診でTinel徴候(神経付近を叩打した際の異常知覚)が陽性になることがしばしば報告されています 。
疫学的には、地域住民を対象としたオランダの調査で、ONの発生率は人口10万年あたり約3.2件(95%CI 2.2–4.5)とされ、平均診断年齢は54.1歳(SD±16.2)でした 。一方、頭痛クリニック受診群では、ONが主訴となる患者は全頭痛患者のうち約25%を占め、うち15%はON単独での受診、残り85%は他の頭痛を併存していることが報告されています。性差としては女性優位とする報告もありますが、明確な偏りは示されていません。
後頭神経痛と自律神経
ONでは、痛みそのものに加え、頭頸部の交感―副交感神経系の反応が関与すると考えられています。
- 頭頸部交感神経連関
大後頭神経は頸部交感神経幹と解剖学的に近接して走行し、持続的な神経圧迫や筋スパズムは周囲交感神経線維を刺激。これにより毛細血管収縮や血流異常が生じ、疼痛増悪因子となる可能性があります PMCサイエンスダイレクト。 - クランニオ―自律反射(Trigeminal Autonomic Reflex)
頭頂部・顔面領域の三叉神経終末と、背側縫線核を介した迷走神経核および上位頸髄神経核との連絡を通じ、ON発作時に結膜充血、流涙、鼻閉といった自律神経症状が見られる場合があります LippincottWiley Online Library。 - 自律神経機能異常の臨床データ
実際にON患者では、発作時の心拍数・血圧上昇、冷感・発汗変化などの自律徴候を伴う症例報告が散見され、これらの症状は疼痛の慢性化や治療抵抗性と関係している可能性が示唆されています PMCPMC。
後頭神経痛の治療
ONは単一治療では十分なコントロールが難しく、以下のような多角的アプローチが推奨されます。
1. 保存的治療・理学療法
- 姿勢改善・ストレッチ:頸部後面筋群(特に僧帽筋・板状筋)の緊張緩和を図り、神経周囲炎症を軽減します。
- トリガーポイント療法:疼痛誘発点への圧迫で筋膜緊張を緩和し、圧痛や自律神経反応を抑制します。
- バイオフィードバック:心拍変動(HRV)をリアルタイムで可視化し、副交感神経優位を促す手法。疼痛発作頻度の減少が報告されています 。
2. 薬物療法
- 抗てんかん薬:カルバマゼピン、ガバペンチン、プレガバリンが第一選択とされ、痛みのパルス性発作を抑制。ただし、133例を対象とした比較研究では薬剤間で有意差は認められず、個別の副作用プロファイルで選択する必要があるとされています 。
- 三環系抗うつ薬:アミトリプチリンなどが慢性化防止に用いられることがありますが、強い抗コリン作用に注意が必要です。
3. 神経ブロック・注射療法
- GONブロック:局所麻酔薬+ステロイド注射で神経炎症を抑制し、15~36%の患者で数週間~数か月の疼痛緩和が示されています 。
- ボツリヌストキシン注射:筋緊張緩和を狙ったオフラベル使用報告があり、一部で疼痛頻度の低下が認められるものの、系統的レビューでは確固たるエビデンスはまだ不足しています 。
4. 神経モデュレーション・侵襲的治療
- パルス高周波療法(PRF):神経に低侵襲な電気刺激を与え、中枢の痛覚伝導路を調節。長期的な疼痛コントロール効果が示唆されています 。
- 後頭神経刺激(ONS):最重症例や薬物無効例に対し、電極を埋め込んで持続的に刺激する方法で、50~85%の痛み軽減率が報告されます 。
- 外科的減圧:GON圧迫が原因と考えられる症例で、筋膜トンネル部を切開・減圧する手術が行われ、良好な疼痛軽減が多数報告されています 。
自律神経調整の視点
ON治療では、疼痛そのものへの介入(ブロックや手術)と並行して、自律神経バランス改善が欠かせません。具体的には、精神療法、ストレス管理(マインドフルネス、呼吸法)、規則的な有酸素運動、十分な睡眠、姿勢改善といった生活習慣の見直しが、神経周囲の血流・炎症反応を鎮め、発作頻度や重症度を低減させるとの報告があります 。
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